NHKのBSプレミアムドラマ『奇跡の人』第4話のあらすじと感想です。全8話ですからちょうど折り返し地点となる今回、花の正志に対する心情も出てました。これから物語後半へどう繋いでいくのでしょうか。
今回は、観ていて「重い」と感じる部分もあり、考えさせられました。とは言っても、正面から「重いテーマを考えなさい」というものでなく、「普通」のことにハッとさせられた感じです。個人的見解ですが。
第4話を観ての他の方の感想も気になるところです。よろしければコメント欄に書き込んでくださると嬉しく思います。
※【追記】
『奇跡の人』を見逃した方に朗報です。
BSプレミアムドラマ『奇跡の人』が再放送されます。
再放送は、2016年 11月1日(火)から、
NHK BSプレミアムで、毎週火曜日 午後5:00~ (全8回)となっています。
(本放送は、2016年4月24日~6月12日 でした)
見逃した方は、今度こそ録画予約スタンバイですよ!
また、有料にはなりますがNHKオンデマンドで視聴という方法もありますよ!
『奇跡の人』第4話あらすじは
海ちゃんを連れてヒッチハイクのトラックに乗り込む一択を見かけた正志は、そのまま後を付けて山形まで行き、到着後も二人の後をつけていきます。
暫く二人の様子を見ていた正志でしたが、一択の前に現れ「気持ち悪い」と因縁をつけ、また一択を殴ります。そんな中フラフラと歩いて行き、道に転げ落ちそうになった海ちゃんを一択は身を挺して守ります。
一方、アパートの大家さんの風子は「一択がくれたお休み」と言って、花を買い物へ連れ出しました。そこで花は海ちゃんが生まれて以来初めて自分のための買い物を楽しみます。しかしそんな中でも海ちゃんを忘れることができない花は、山形へ向かいます。
そして山形で花は一択に言います。
「やめるなら今だよ。いつか放り出すなら、今やめて」
一択は答えます。
「しませんよ。放り出したりなんて。しないです」
放り出して逃げた正志について一択が文句を言うと、花はこう言いました。
「正志は正志なりに精一杯頑張った。でも絶望したんだ。自分に。だから逃げた。絶望したこともない奴に正志をどうこう言う資格なんてない」
花は逃げなかったことを一択に指摘されると、花はこう答えました。
「一人が逃げたからだよ。私には絶望することもできないんだよ」
「絶望の先には何があるんですか?」一択は花に尋ねました。「そんなのわかんない」と返す花に、
「希望がなきゃいけないんじゃないかなあ。俺はそう思うなあ・・・」と一択は呟きます。
そして「希望は、ありますよ」
本気でそう思い、答える一択でした。
『奇跡の人』第4話感想 やはり正志の行動は偽悪的
私は第3話の感想で、正志が偽悪的だと考察しました。それは今回も感じる描写がありました。
正志はアホでがさつな乱暴者に見えますが、細かなところでそれだけではない表現が見受けられます。
海ちゃんが一択に連れ去られそう(?)な場面に出くわした正志は、食べかけのお弁当をしっかり分別してゴミ箱に入れてから二人を追いかけました。思い返すと、一択との喧嘩シーンでも、その前に吸っていたタバコをしっかり携帯灰皿に入れてから喧嘩を始めました。アホでガサツでもポイ捨てはしないし、ゴミの分別もするモラルが正志にはあります。
そして、一択が買い与えた饅頭を食べる海ちゃんを見て、正志はこっそり同じものを買い求めたりしてます。海ちゃんが吹く風を楽しむような表情を見せ、写真を撮る一択とじゃれ合う姿を隠れて覗いている正志は、それまでの訝しむようなしかめっ面がほどけて、一瞬、素の表情がかいま見えます。こんな表情を見せられると、やはり表面的に見える言動だけで”酷い男”と決めつけられないと思います。
今回も正志は酷いことをやっています。
一択のことを「気持ち悪い」と言い、苛立ちをぶつけるように一択を殴り、道に転げ落ちそうな海ちゃんを見殺しにするような言動を取り「一択が海ちゃんを守れない」ことを証明しようとします。
でも一択は身を挺して海ちゃんを守りました。
海ちゃんを守るように抱えて道路に転げ落ちた一択を見て、正志は「あっ」と小さく声を上げてしまいました。そして落ちた二人の方へ勝手に足が向いています。ここでも本音が出ているのではないでしょうか?
この後には「金貸してくれ」とか、一択に金なんかないと言われて「使えんのう」とか捨て台詞を残して去っていきますが、また偽悪的に振舞っているとしか見えませんでした。
バカの一択だからできること
一方、海ちゃんを山形まで連れ出した一択ですが、まさか正志がつけてきているとは知りませんでした。
小学校に海ちゃんを連れて来て、聞こえない海ちゃんに話しかけます。
自分は学校も先生も同級生も嫌いだったこと。間違って生まれてきたんじゃないかと感じていたこと。
知らないことを教えてくれる学校は、ありがたいことなのかもしれない。でも「お前のためだ」と、頼んでもないことをあれもこれも教えられて、新しいことを頭に詰め込んで、忘れたくない大事なことを忘れていってしまう。忘れたくないことがいっぱいあったのに。
「だから俺は俺の世界だけでよかったの。海は?」
一択は海ちゃんを自分に重ねながらも、海ちゃんの心の中を考えます。
「それとも知りたいって気持ちもわかんねぇのかなあ・・・? 海の頭の中のことを考えるとポカーンってわかんねくなるよ。まるで宇宙のこと考えてるときみたいに」
一択は海ちゃんの中にあるものを測ろうとしています。海ちゃんの中にあって一択の中にはないものは、測るための道具がないのです。それをどうにか知ろうとしています。
例えるなら、全く違った価値観、生態系、存在の宇宙人と遭遇してコンタクトをとるようなものです。今まで他の人は、そこまで海ちゃんに寄っていってはいませんでした。宇宙人とコンタクトを取って理解し合えるなんて思ってないからです。
でも一択はできると思っています。バカ(純粋)だから。
学校で再会した元同級生は「亀持一択だべ? 久しぶりだなあ」と名前を言って声をかけています。しかし一択のほうは「久しぶり同級生諸君!」という返答です。多分一択は相手が誰だか分からないのでしょう。というか、誰が誰でも同じの『同級生』という括りでしかないのでしょう。大嫌いだった学校時代、一択はそれぞれの『個人』とちゃんと向き合って過ごしていないのでしょう。
海ちゃんの言動を見て、元同級生たちから笑顔が消えていき、一択に「大変だな」と言います。それは「普通」の反応で、多分彼らは一択を気遣っているつもりで言った言葉でした。
でも一択は「なんで?」と聞きます。
「お前らさあ、ここにいるとき、俺のことなんか興味なかったでしょ? 見てなかったっていうか。でもどう見たってあんときの俺より今の俺のほうが幸せそうだべ? 今の俺の幸せを感じ取れない? この子のおかげで世界の新事実ってやつに出会えそうなんだよ」
「・・・あ~~。そう、なんだぁ・・・」としか答えられない元同級生たちでした。
一択は本気で海ちゃんがかわいいと思っています。そして海ちゃんといることが「大変だ」なんて全く思っていません。
海ちゃんに対する元同級生たちの反応を見て、一択は、「自分たちとは違う」と線を引かれて阻害視されているように感じたのでしょう。自分の学校時代がそうだったように。
しかし、元同級生たちの方には排除する強い意志などなかったと思います。また、学校時代の一択に対してもそうでした。
一択は「元同級生たちが一択のことをどうでもいいと思って興味もなかった」と思っているようですが、彼らは親友とまでは言わないけど「普通に」友達だと思っていて、 「普通に」元同級生を気遣っているだけでした。本当に興味がなかったら相手の名前も憶えてないでしょう。一択みたいに。
学校時代に「興味がないだろう」と思って線を引いて閉め出したのは一択のほうでしょう。だからこそ一択は孤独で自分の世界を持ったまま大人になっていった。そして海ちゃんに出会うことになります。
目が見えず、聞こえず、しゃべれない海ちゃんは、外界と切り離された独自の世界で生きています。一択は自分と同じものが海ちゃんの中にあると感じ、それ故に海ちゃんを知りたいし向き合いたいと思っているのでしょう。
なんだか少し元同級生の方々が気の毒ですけどね。
彼らも周りに海ちゃんのような子がいないから異質に感じているだけで、悪気があったわけでなく、どう対応していいかが分からなかった「普通の人」ですから。ただその「普通の人」がたまに凶器になってしまうこともあることを考えみないといけないかもしれない。今回、そう考えてしまいました。
障がい児の母として生きる花の希望は?
花は今まで海ちゃんが最優先でした。
海ちゃんのことだけを考えて生きてきた結果、「今世の中では花が知らないことが色々ある」そう気付いた今回の花でした。
一択が海ちゃんを連れ出したことにより、大家の風子は「一択がくれたお休み」だと言って、花を買い物に連れ出します。
最初渋っていた花も、久しぶりの自分の買い物や生まれて初めて食べるパンケーキやケバブなどにはしゃぎます。
海ちゃんが側にいないので気兼ねなく自分のことで楽しめる初めての時間。
「楽しい」「こんなの知らなかった」と言っていた時間。
でも涙を流して言うのです。
「海に会いたい。海にも食べさせてあげたい。教えてあげたい」
花は楽しんでいる間でも海ちゃんのことを頭から追い出すことはできませんでした。
「海ちゃんの服買って帰ろう。どこにあったっけ? 子ども服の女の子のかわいい服」と言う風子に、
「あっちにあった。かわいい店」と即答して指差す花が、自分の気分転換のための買い物中にも海ちゃんのことが頭から離れていなかったことを物語っています。
そう。花は海ちゃんが最優先で生きています。
海ちゃんを守るためにいつも臨戦態勢で、ギンギンに尖った生き方をしています。
正志が二人を置いて逃げ出した後、自分しか海ちゃんを守る人がいないからです。
それでも、正志のことを悪く言う一択に対して、
「あんたにそんなこと言う資格ない。絶望したこともない奴に正志をどうこう言う資格なんてない」と言います。
「このままいったら、ひょっとして自分は自分の子供を殺してしまうんじゃないかって、そう思っちゃう気持ち、わかんないでしょ? 正志は正志なりに精一杯頑張ったよ。でも絶望したんだ。自分に。だから逃げた」
そして、「正志は逃げたけど花は逃げてない」と指摘する一択に言いました。
一人が逃げたからだよ。私には絶望することもできないんだよ。
ギンギンに尖った態度をとって生きてきた花。
それは、もう自分しか海ちゃんを守ることができないから。
自分が絶望したら、もうそこで海ちゃんを守るものがいなくなってしまう。
正志がいなくなったとき、花にはもう選択肢はそれしかなかったのです。
第三者的に見ると「そんなこと自分だったらとてもできない」と考えてしまうのですが、花にとっては「できる、できない」は考えるだけ無駄だったのです。それしか選択肢がないのだから。
私はこの状況が今回の話で一番重いと感じました。
一人で海ちゃんを育てる花が本当に『強いひと』だと敬意を感じるのですが、そんな想いさえ失礼なのだと私は思いました。当人にとっては選択肢が無い以上、「強かろうが強くなかろうが関係ない」のです。「やるしかない」状態でした。
考えるととても重い内容に、私はうまく説明できないのですが。
こういった「選択肢のない状況で生きる人を助けるのが “福祉” 」だとアパートの住人の一人のフクシくんなら言いそうです。
そして、「誰も助ける人はいない」と考えたのが正志なのでしょう。だから自分は逃げた。でも責任を押し付けてしまった花を救いたい。自分が海を殺しておけば花は幸せに生きていけたかも・・・。
花はそんな正志の心情が解っているのでしょう。
だから、花は言います。
「正志を責める奴は私は許さない」と。
今、花と海ちゃんの二人を守ろうとして生きているのは一択です。
なのに、きっぱり花にそう言われた一択は、何を感じたのでしょう?
「絶望の先には何があるんですか?」一択は花に尋ねました。「そんなのわかんない」と返す花に、
「希望がなきゃいけないんじゃないかなあ。俺はそう思うなあ・・・」と呟きます。
そして「バカですみません」と謝った一択でした。
いつものように海ちゃんの手のひらに「ママ」とか「いったく」とかを書いて一択は言いました。
「希望は、ありますよ」
そんな一択に「手を貸して」と言って、花は一択の手のひらに何か書き込みます。
「なんて書いたんですか?」と聞く一択に、「教えない」と言う花でした。
結局なんて書いたのか、本編では分からないままでした。
ただ「絶望したこともない奴に正志をどうこう言う資格なんてない」と一択を突き放した花でしたが、
「絶望の先には希望がなければいけない」と言う一択の姿に、一択は「絶望したこともないバカ」ではなく、充分すぎるくらいに絶望を味わったことがあるのではないか?と、花は考えなおしたのではないかと思いました。
そうすると、書いた言葉は「ごめん」か「ありがとう」。
『希望』を見出してくれた一択に対してなので、やはりここは「ありがとう」だと私は思います。
まとめ
今回はちょっとしたことが、見た目よりヘビィーな内容をはらんでいるなと思いました。しかし元々、テーマがテーマなので、考えさせられることは人それぞれなのかもしれません。
「絶望の先には希望がないといけない」これも重い言葉です。
絶望の真っ最中にある状態では希望があるかどうかなんて見えない。でも希望があると思わないと生きていけない。「希望があるかも?」と思うことが『希望』になるのかもしれない。こう書くと、無い希望にすがってると取られてしまうかもしれませんが。
しかし、絶望の中にいると真っ暗で見えないだけで、実は隣に『希望』がいるのかもしれません。見えてないだけで、そこにあるものを諦めるくらいなら、『希望がある』と思って進んだほうが絶対いいですよね?
そんなことも考えた今回でした。
いよいよ、これから後半戦へ突入しますね。次回は第5話。そろそろ大きな転機がやってきそうな予感です。